black diary

にゃーん

『ロミオとジュリエット』第三幕第五場について

  1. 序論

 第2章では、腐敗する身体と永存する臥像との間において示されている対比について論じていく。第3章では、パリスが墓所の中でロミオの企みについて想像した部分の分析をきっかけに、Romeo and Julietにおけるレイプというテーマを論じていく。

 

  1. 身体/臥像

 柩に入れられず柩台の上に美しい姿のまま横たわるジュリエットは、もちろん観客席からよく見えるようにという演出上の意図があるのだろうが、同時に彼女は石棺の上に置かれる臥像の代理ともなる。”Where bloody Tybalt, yet but green in earth, / Lies fest’ ring in his shroud” (4.3.42-43) とジュリエットの想像の中で語られる、腐敗していくティボルトの死体とは違うイメージをジュリエットの身体は担わされている。

 

Death, that hath suck’ d the honey of thy breath,

Hath had no power yet upon thy beauty.

Thou are not conquer’d ; beauty’s ensign yet

Is crimson in thy lips and in thy cheeks,

And death’s pale flag is not advanced there. (5.3.92-96)

 

上はジュリエットの横たわる姿を見たロミオのセリフである。彼女は呼吸こそ止まっているものの、唇と頬にはまだ血色が留まっている。もちろん彼女はまだ死んでおらず生きているからこそその美しさを保っているのであるが。しかし、上の引用部分の”yet”という単語の繰り返しからわかるように、ジュリエットの身体もいずれは腐敗していくことがこの時点で同時に述べられている。 

 しかし、最終的にジュリエットはロミオとともについに臥像となり、その姿は美しいまま保存されることが示される。

 

For I will raise her start in pure gold,

That whiles Verona by that name is known,

There shall no figure at such rate be set

As that of true and faithful Juliet.

Capulet. As rich shall Romeo’s by his lady’s lie――

Poor sacrifices of our enmity ! (5.3.268-303)

 

臥像の材料として大理石でも他の金属でもなく黄金が選ばれた理由は、その豪華さはもちろん、他の材料に比べ際だって腐敗しにくいという性質が重要なのだろう。腐ってしまう生身の身体は黄金の像に置換された。もしくは、黄金の像が置かれることにより、むしろこれから腐り落ちてゆく若い恋人たちの身体性は一層強調されてしまったのかもしれない。ロミオと血まみれのジュリエットの死体は、幕が降ろされた後に黄金の像の下朽ち果てていくこととなる。

 

  1. Necromancer/Necrophilia、レイプ

 

It is supposed the fair creature died ―

And here is come to do some villainous shame (5.3.51-52)

  

 パリスは、ロミオが「『不埒な侮辱を加えるために』死体の一部を悪魔術に使うというようなことを考えている」と大修館版は説明している。ロミオがジュリエットの死体を使いネクロノミコンを企んでいるのではないかとパリスは想像しているのだということである。これは、シェイクスピアRomeo and Julietの材源とした、Arthur BrookeのThe Tragical Historye of Romeus and Juliet (1562)を振り返ってみるとよく分かる。シェイクスピアRomeo and Julietにおいて、「物語の筋や登場人物を借りただけではなく、ブルックの用語や言いまわしをも数多く利用している」(大修館版, 10)。

 

The watchemen of the towne, the whilst are passed by,

And through the gates the candel light within the tomb they spye :

Whereby they did suppose, inchanters to be come,

That with prepared instruments had opened wide the tombe,

In purpose to abuse the bodies of the ded,

Which by theyr science ayde abusde, do stand them oft in sted. (Brooke, 2793-2798)

 

ここでは、”The watchemen of the towne”が想像する内容が”science”のために死体を”abuse”するということがはっきりと分かる。Romeo and Julietにおいてパリスが想像している内容の一つとして、ロミオがしようとしていることはネクロノミコンであるということは確実に言えるだろう。しかしこの”some villanious shame”とは、同時にネクロフィリアでもあるのではないだろうか。The Tragical Historye of Romeus and Julietの該当部分において想像を膨らませているのは”The watchmen of the towne”であるが、Romeo and Julietでは墓場でロミオがパリスを刺す場面が新たに挿入されたことにより、妄想を膨らませる人物がパリスへと変更されている。このことが、この場面に異なった意味合いをもたらす。

 

Sweet flower, with flowers thy bridal bed I strew――

O woe, thy canopy is dust and stones ! (5.3.12-13)

 

パリスにとってジュリエットが横たわる柩台は”bridal bed”、結婚するはずだったジュリエットと新婚の初夜を過ごすべき場所である。つまり、パリスがジュリエットとセックスすべきところである。場自体が、性的な意味に満ちている。”Can vengeance he pursued further than death” (5.3.54)”とパリスが言う時、彼はロミオが復讐を込めて死体をレイプするとも考えている。

 ところで、誰の死体に対し「不埒な侮辱を加える」のというだろうか。マキューシオを殺したティボルト自身に報復のレイプをするのだろうか。それとも、マキューシオを殺したティボルトを悔しがらせるために、ティボルトの目の前でジュリエットをレイプするのだろうか。あるいは、”bloody sheet”(5.3.97)をまとったティボルトの方はロミオによりすでに「レイプ済み」で、あとはもう一人の方がレイプされるのを待つのみ、というふうにも読むことができる。この場合、墓場に横たわるロミオ以外の三つの死体が全て刺傷により生み出されたものであるということは実に興味深い。ティボルトとパリスはロミオにより刺し殺され、ジュリエットはロミオの短剣で自らの胸を突き刺した。そして殺人犯/レイプ犯・ロミオは一人だけ毒を飲むことで命を絶ち、自らが生み出した三つの死体のそばにその身を横たえることとなる。少なくともジュリエットについては性的な意味合いが非常に明確に表れている。彼女は”This is thy sheath ; there rust, and let me die.” (5.3.169)という言葉を最後に自殺するのだが、この言葉の意味はつまり「あなたの鞘(ロミオの刃/ペニスが収まるべきジュリエットの鞘/膣)はここです」ということである。また、ジュリエットが剣を刺す場所も象徴的である。

 

This dagger hath mista’en, for, lo, his house

Is empty on the back of Montague,

And it mis-sheathed in my daughter’s bosom. (5.3.202-204)

 

上の引用通り、ジュリエットは自分の胸に剣を刺している。ところで、Romeo and Julietのすぐ後の書かれたと思われるA Midsummer-Night’s DreamRomeo and Julietと共通するところが大きく、二作品は「姉妹篇あるいは「二連祭壇画」のようなものだといわれている」(大修館版, 8)。以下に引く部分はA Midsummer-Night’s Dreamの第二幕第二場でハーミアが眠りから目を覚ましライサンダーを探す箇所である。

 

Help me, Lysander, help me ; do thy best

To pluck this crawling serpent from my breast.

Ay me, for pity! What a dream was here!

Methought a serpent eat my heart away,

And you sat smiling at his cruel prey. (A Midsummer-Night’s Dream, 2.2.145-150)

 

ハーミアは自分の胸の上に蛇が這っている夢を見ている。この蛇はファリックなシンボルである。また、ハーミアは別の箇所でディミートリアスライサンダーを殺したと思い込み以下のように彼を責める。

 

Durst thou have look’d upon him being awake,

And hast thou kill’d him sleeping? O brave touch!

Could not a worm, an adder, do so much?

An adder did it ; for with doubler tongue

Than thine, thou serpent, never adder stung. (A Midsummer-Night’s Dream, 3.2.70-73)

 

ここで彼女はディミートリウスがライサンダーをレイプしたのだと妄想しているが、蛇の二枚舌でライサンダーを「刺した」と言っている。やはり、1つ上の第二幕第三場からの引用においてもハーミアが恐れているのは彼女の「胸」を蛇が「刺す」ということであろう。刺すという行為がRomeo and Julietにおける「レイプ」の実行される様と同期していて興味深い。

 レイプという主題はバルコニーの場面にも登場している。この場面におけるロミオの行為は、ジュリエットの寝室に忍び込んで、ジュリエット心を盗むという擬似あるいは象徴的レイプに近いところもあって、必ずしも全面的に幸福な瞬間とも言えないところもある。

 しかしレイプについて、特にジュリエットの受ける「レイプ」について話すとき、決して彼女が男性の持つ権力に翻弄されなすすべもなく死んでいったと言っているわけではない。ジュリエットは、ロミオの短剣にレイプされることを自ら欲望している。彼女の死はパンゲのいうところの「意思的な死」だ。もちろんこれは、「レイプされてジュリエットも楽しんでいたのだろう」というような(レイプ被害者を指差して発せられる、現実にあるような)下世話な勘ぐり、セカンドレイプとは違う。彼女の欲望は、ロミオの欲望によって生み出される単なる補完物として書かれてはいない。もちろん2人の恋はロミオの呼びかけにより始まったものではあるのだが。それでもなお、彼女の力強さ、前向きな姿勢はこれまで彼女を抑圧してきた父権制への反抗を感じさせる。彼女は主体的に欲望し、能動的に受動性を自らの内に導き入れることのできる立派な主人公である。

 

  1. 結論

 物語の最後で建てられることが約束される黄金の像はジュリエットとロミオに、永存する身体と腐敗していく身体とを同時に付与する。また、ロミオによりジュリエットと数々の男たちが「レイプ」されている。その中で、ジュリエットが性的に欲望する様が生き生きと描かれている。