black diary

にゃーん

『LOST IN LOVE』として、MIYAVIの愛は何処へ向かう?; 語られないことによって語られる同性への愛

Last breath……吸い込んだ息が途切れる時。

歌い上げたくとも足らぬ息、性交に乱れる息、ショックに詰まる息、そして、最後の瞬間、死の間際に吸い込まれる息。”I”の唇から漏れ出る苦しみに満ちた呼吸が紡ぐのは、一つの愛のたどった悲劇そのものである。一つの愛があった、しかし、誰との間に?

1. INTRO

“[T]he emotions we hide from / […] we mask /we burry”、つまり私たちが直視することを避け、抑圧し、心の奥底に葬った感情、それが愛であると”I”は語る。そして自分は、その愛の中に、今もなお彷徨い続けているのだと。

2. BROKEN FANTASY

愛の対象であるところの“you”がここで現れる。”You”と”I”は性交をする。おそらく、”you”が”I”の上にのしかかり、向かい合い見つめ合う形で;

The way you drag me down so slowYou spit me out and break my bonesLooking down on me so closeI love it when you watch me

直後、古典を引く形で”I”は女性化される;

What if you put me in the grave?What if you kiss me just to bring me back from the dead?

王子様のキスによって目覚める無垢なお姫様というモチーフだ。しかし、その王子様が真実の愛を告げるべき場面ですら、頑なにその愛が何であるかは伏せられる—”Your lips are vicious with the words that you never said”—。

 そして曲の最後に、この愛は幻想になってしまったのだと”I”は語る。今もなお、その愛の中を彷徨い続けているにも関わらず。

3.  Eat Eat Eat

ジェミニ、二つの顔、鏡……と畳み掛けられる自己の中の二面性というモチーフは、もう種明かしして仕舞えば、抑圧されたホモセクシャリティを表現してきた、古典的かつ「正統」な手段だ。ついでに言えば、「その名を語りえぬ愛」というのも、勿論ワイルドの愛、ホモセクシャルな愛のことだ。”I”が言葉を濁す時、嘘をつく時、その「不在であること」によりかえって同性への愛は外側から縁取られる。

 後半、唐突に出てくる”she”という代名詞が指すものは何か。”I”の愛が向かう相手であるという読みを敢えて否定して、違う読みの試みを提示すると、その”she”とは「Broken Fantasy」で女性化された”I”の姿ではないだろうか?”She”がどうなるかについて言い淀まれるのと対照的に、この曲の中でもう一人言葉を詰まらせられるのは、”I”であるのだし。

4. WE STAY UP ALL NIGHT (LA DA DA DA)

少年は温かな母の愛から遠く離れたところへ逃げ走る;

This can’t only be me Bags packed big dreamsRunaway on the street

もし”I”を歌い手であるMIYAVIに擬えるなら、これは17歳の時に、とある「先輩」の死を受けて上京することを決めたときの話であるだろう。そしてなお”I”をMIYAVIに擬えるなら、出奔するまで”I”を追い詰めたショックとは、死によって分かたれた「先輩」との愛であろうか?神のみぞ知る。

5. MIRROR MIRROR

“I”が鏡に語りかけるとき、”you”とは”I”が選ばなかった道、選べなかった愛を象るもう一つの”I”の姿。強い抑圧。しかしもう一人のあり得たかもしれない自分、あり得たかもしれない愛を諦めることはできない。

6. DANCING WITH THE DARK

「Broken Fantasy」において向かい合って確かめられた愛は、”I”にのしかかり首を絞めあげる呪いへと形を変える;

On top of me, on top of meToo hard to breathe, too hard to breatheThere’s no relief, there’s no releaseI’m never free, hey, hey

言葉の通り、ブレスできず掠れた息で歌唱されるフレーズである。

 悪魔は”I”の首を掴んで”my temptation”を彼の頭の中に囁く。しかし、temptation …of what?という疑問は当然起こり、そして繰り返される”I know it”…というフレーズには、やはり、know…what?となるわけである。言い淀まれ、語られぬ、欲望。

7. TRAGEDY OF US

“We should have killed this love when we tried to survive”とは、逆説的に、抑圧した愛を殺すことはできなかったということ。

違う時代違う場所別の人生別の運命を辿りえたもう一人の自分を諦めることはできなかったということ。

8. THE LAST BREATH

過去の愛、なんなら死んでしまったのかもしれない愛の相手と”I”は今、見つめ合い、混ざり合おうとする。死への欲動。死んでしまえば、”[f]ading into darkness, reaching out”してしまえば、”were almost there”、愛の相手のもとへと辿り着ける。

 しかし、当曲の「最後の呼吸」は歌唱時の吸い込むブレス音で締められている。これから歌いはじめるため、生きはじめるための呼吸。前編のラストとして完璧なクリフハンガーである。

 

(おわり)

V系回帰じゃなくて、10代の個人史の語り直しなんだろうな、と思いました。